アラフィフの情けなく恥ずかしい悩み

金銭の対価として依頼するか。
想いを通じた形で成し遂げるか。
前者は思い立てばできるが、その後の不安がつきまとう。
後者は理想的だが、不可能に近い。
どうしたらいいか。
数ヶ月間、思い悩んでいる。

 

生まれてから47年間、女性にモテたことがない。
年齢=彼女いない歴ということになる。
一生無縁だと腹を括り始めた。
だが、少し前から思うようになった。
一度でいいから「抱く」という行為をしてみたい。
しかし、それを依頼する相手がいない。

 

うるさい!つべこべぬかさず「店」へ行け!
北方謙三先生ならそうおっしゃるだろう。
そう思って、お店をネットで探したこともある。
だが、しかしだ。
不安が頭をよぎる。
万が一、互いに想いを寄せ合う女性が現れたらどうする。
47歳にもなって「最初」を業者に委託した男をどう思うか。

 

プロの方にお願いするか、万が一に期待するか、悩ましい。

 

「万が一」の確率がそれより低いことは承知している。
私に好意を持つ女性が、この世の中にいるとは思えない。
でも、何が起きるかわからない時代だ。
何かのきっかけで自分にも運が巡ってきたら。
女性経験のない男が評価されるようになったら。
どちらも驚天動地の大変革だが、絶対にないとも言い切れない。

 

待てよ。
いつから私はそんなポジティブになったんだ。
基本的にネガティブ思考じゃなかったか。特に性愛に関しては。

 

小学4年生のころだったと思う。
テレビでアニメ『まいっちんぐマチコ先生』が放送されていた。
私は見ていなかったが、多くの同級生が見ていた。
ある時、日常的に俺をいじめていた奴がデマを流布した。
俺がエロい性格で、『マチコ先生』を熱心に見ていると。
同級生はそれを信じたのか、俺を嘲笑したり、避けたりするようになった。
以来、性的なことに悪いことと思うようになってしまった。
ひどく恥ずかしいことで、世間から非難されるものだと。

 

5年生、6年生になると、別のことでいじめられた。
授業中に当てられて間違った答えをしたら、
クラスの優等生連中からバカにされ続けた。
彼らにとっていじめる理由は、何だっていいのだ。
何か失敗すると、馬鹿にする格好の材料となる。
私は自己防衛のためにミスや汚点を作らないことを心がけた。

 

中学に入ってもこの状態は続いた。
困ったのが恋愛である。
授業で間違えた答えをしただけでいじめられるのだ。
もしフラれたという汚点が生じたら、
周囲からどれだけバカにされ、いじめらるか。
想像しただけで絶望的な気持ちになった。

 

一般論では、告白しても必ずフラれるとは限らない。
だが、中学生の俺には通用しなかった。
外見も性格も何一つ良いところがない。
恋愛=失恋でしかなかった。
恋愛→フラれる→周囲に知られていじめられる。
この負のスパイラルを避ける方策を考えた。
それは、恋愛をしても口に出さないことだった。
好きな相手に知られなければ、フラれることはない。
それで平穏な日常を過ごせる。
コロンブスの卵みたいなものだ。
実際に好きな子はいたが、想いを押し殺し続けた。

そのおかげか、いじめられることは少なくなった。
だが、想いを抑圧することは予想外につらかった。
その結果、恋愛そのものを避けるようになった。

 

今でもこの考え方が染み付いている。
恋愛は忌み嫌い避けるもの。
性的なことは恥ずかしく、世間から非難されるもの、と。

 

大学生になっても、社会人になっても、
恋をしても無駄なことだから、必死で想いを消すように努めた。
性欲はあるが、生身の体を求める気にはならなかった。
性愛はどこかの文化・風習が異なる別世界の話だと思っていた。

 

ところが、その考えが大きく揺らぐことが起きた。
きっかけは深夜のテレビ番組『ゴッドタン』(テレビ東京)だった。
2018年8月放送の「ウソつけない女オーディション」という企画で、
4名の女性タレントが経験人数や好きな体位などの質問に対して、
赤裸々に話していた。
AV女優以外の女性が性について語るのを初めて見た。
彼女たちに卑猥な印象がなく、楽しげであっけらかんとしていた。
見終わった後、自分の中にあった「殻」が消えて行く感じがした。
性的なことは特別悪いことでもないんじゃないかと。

 

自分は性や恋愛を避けてきた。
それは自分を否定することだった。
その自己否定の蓋が外れたのかもしれない。

 

「性」とは“りっしんべん”に「生きる」と書く。
今まで私は心を押し殺してきた。それが生き返ったのではないか。
だから、性行為をしたいと思うようになったのか。
いや、本当に求めているのは、行為そのものではない。
誰かに自分を受け入れてもらいたいのだろう。
その具体的な表れの一つとして、性行為を求めているのかもしれない。

 

わかっている。気づくのが遅すぎたのだ。
私は低所得の中年男。誰が好きになるものか。
やっぱり北方謙三先生のアドバイスに従った方がいいか。
だが、それは金に対する対価に過ぎない。

結局は堂々巡りだ。
かくして時間ばかり過ぎて行く。